50ccの原付は、もう新車で買えない。
2025年10月31日で生産が終了し、2026年4月1日からは原付一種の定義そのものが「排気量50cc以下」から「排気量125cc以下・最高出力4.0kW以下」に変わった。いわゆる新基準原付である。
制度の解説記事はもう山ほどある。だがそれを読んでも、いちばん知りたいことは分からない。で、結局それは買いなのか。
筆者は2022年からホンダ・タクト(50cc)に乗っていて、4年ぶんの維持費と、3年64回ぶんの給油記録を持っている。その実費と、ホンダ公式のスペックを並べて計算した。
先に言っておくと、この記事は制度の解説ではない。制度は他所のほうが詳しい。ここにあるのは実費だけである。
【結論】維持費はほぼ変わらない。増えるのは車両価格と17kgだ
計算した結果を先に出す。
| 項目 | 変わるか |
|---|---|
| 軽自動車税 2,000円 | 変わらない |
| 自賠責保険 | 変わらない(同じ「一般原動機付自転車」区分) |
| 任意保険(ファミリーバイク特約) | 変わらない |
| 交通ルール(30km/h・二段階右折・二人乗り禁止) | 変わらない |
| ガソリン代 | ほぼ変わらない(4年で約2,000円) |
| 車両価格 | +60,500円 |
| 車両重量 | +17kg |
4年乗った場合の差額のうち、97%は車両価格である。維持費はほとんど動かない。
そして最高出力は、4.0kWという上限があるせいで12%しか増えない。排気量は2.2倍になるのに、だ。変わるのはトルクだけ。
【誤解】125ccになっても、30km/h制限と二段階右折は消えない
ここを勘違いしている人がいちばん多いと思うので、先に潰しておく。
新基準原付は「原付一種」である。排気量が125cc以下になっても、区分は原付一種のままだ。したがって、
- 法定最高速度は30km/h
- 二段階右折が必要(信号機があり、片側3車線以上の交差点。標識による指定・除外あり)
- 二人乗りは不可
- ナンバーは白、軽自動車税は年2,000円
すべて50ccと同じである。「125ccになるなら流れに乗れる」わけではない。
排気量が2倍以上になっても、法律上できることは1ミリも増えない。ここが新基準原付のいちばん重要な点だと思う。
【前提】2025年10月に何が終わり、2026年4月に何が変わったのか
事実だけ並べる。
- 2025年10月31日: 50cc原付一種の生産が終了
- 2026年4月1日: 原付一種の定義が「125cc以下・最高出力4.0kW(5.4PS)以下」に変更
- いま持っている50ccは、そのまま乗り続けられる。規制の対象は新しく作る車両である
生産終了の理由は排出ガス規制だ。50ccという小さなエンジンで最新の基準を満たす装置を積むのは、技術的にもコスト的にも割に合わなくなった。
【スペック比較】タクトとディオ110 Lite を並べる
筆者が乗っているタクト・ベーシック(50cc)と、ホンダが新基準原付として出したディオ110 Lite を、公式の主要諸元で比べる。
| 項目 | タクト・ベーシック | ディオ110 Lite | 差 |
|---|---|---|---|
| 総排気量 | 49cm³ | 109cm³ | 2.2倍 |
| 最高出力 | 3.3kW[4.5PS]/8,000rpm | 3.7kW[5.0PS]/5,250rpm | +12% |
| 最大トルク | 4.1N・m/6,000rpm | 7.6N・m/4,000rpm | +85% |
| 車両重量 | 78kg | 95kg | +17kg |
| 燃費(WMTCモード値) | 58.4km/L | 56.6km/L | −3% |
| 燃料タンク | 4.5L | 4.9L | +0.4L |
| メーカー希望小売価格 | 179,300円(筆者の2022年購入時) | 239,800円 | +60,500円 |
この表がこの記事の核心である。
排気量は2.2倍になった。なのに最高出力は12%しか増えていない。新基準原付には4.0kWという上限があるので、エンジンを大きくしても出力は伸ばせないからだ。
増えたのはトルクである。4.1から7.6N・mで、85%増。しかも発生回転数が6,000rpmから4,000rpmに下がっている。発進と登り坂は、はっきり楽になる。回さなくても進むからだ。
だが最高速度は法定30km/hで頭打ちになる。つまり買えるのは「速さ」ではなく「余裕」だ。
燃費はWMTCモード値で3%しか変わらない。ここは意外だった。排気量が倍でも、出力を絞っているぶん食わないのだと思う。
【実費】50ccに4年乗って、年34,000円だった
ここからが自分のデータだ。
| 項目 | 年額 |
|---|---|
| 軽自動車税 | 2,000円 |
| 自賠責保険 | 約4,280円(2年契約8,560円を1年換算) |
| 任意保険 | 10,360円(ファミリーバイク特約) |
| ガソリン | 約15,000円(年約5,000km) |
| オイル交換 | 約2,500円(年2〜3回・自分で) |
| 合計 | 約34,000円 |
月に直すと約2,800円。実燃費は3年64回の給油記録で55.75km/L、1kmあたり3.01円だった。
内訳の詳細はこちらに全部書いてある。
【試算】新基準原付にすると、4年でいくら変わるか
上のスペックと実費を使って計算する。
ガソリン代から。筆者の実燃費55.75km/Lは、カタログのWMTC値58.4km/Lの95.5%だった。同じ比率をディオ110 Liteに当てはめると、実燃費はおよそ54.0km/Lと見込める。
年5,000km走ると、
| 車種 | 年間の燃料 | 年間の燃料代 |
|---|---|---|
| タクト(55.75km/L) | 89.7L | 約15,070円 |
| ディオ110 Lite(54.0km/L 想定) | 92.6L | 約15,560円 |
| 差 | 約490円/年 |
※ガソリンは筆者の実績から168円/Lで計算
4年でも約2,000円しか変わらない。
税金・自賠責・任意保険は区分が同じなので動かない。つまり4年間の差額はこうなる。
| 項目 | 差額 |
|---|---|
| 車両価格 | +60,500円 |
| ガソリン代(4年) | +約2,000円 |
| 合計 | 約62,500円 |
差の97%が車両価格だ。「新基準原付は維持費が高い」という話ではまったくない。単に本体が6万円高いというだけである。
6万円で何が買えるかというと、トルク85%増と、17kgの重さだ。この交換レートをどう見るかが、この記事の答えになる。
【時限】自賠責は2026年11月1日に値上げ。原付の上げ幅が全車種で最大
新基準原付とは直接関係ないが、原付に乗るなら知っておいたほうがいい話がある。
自賠責保険が2026年11月1日から13年ぶりに引き上げられる。ニュースでは「全車種平均6.2%」と報じられているが、原付の上げ幅はそれよりはるかに大きい。
| 契約期間 | 現行(〜2026/10/31始期) | 改定後(2026/11/1始期〜) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 1年 | 6,910円 | 7,730円 | +820円 |
| 2年 | 8,560円 | 9,630円 | +1,070円 |
| 3年 | 10,170円 | 11,480円 | +1,310円 |
| 5年 | 13,310円 | 15,030円 | +1,720円 |
改定率は12.5%(2年契約)で、自家用乗用車の5.2%の2倍以上だ。原付が全車種でいちばん上がる。
更新が近いなら、10月中に済ませたほうがいい。始期が10月31日までなら現行料率が適用される。長期契約ほど差が大きい。
【選択肢】いま原付が必要なら、どうするのが正解か
3つある。順番に見ていく。
A. 新基準原付を新車で買う
向いているのは「これから買う人」で、「坂が多い」「荷物が重い」場合。トルク85%増が効くのはそこだ。
逆に平地を短距離走るだけなら、6万円と17kgを払う理由は薄い。最高速度は変わらないのだから。
17kgは数字以上に効く。取り回し、駐輪場での押し引き、倒したときの起こしやすさ——体格によっては、ここが決定打になる。またがって押してみてから決めてほしい。
B. いま乗っている50ccを維持する
すでに50ccを持っているなら、これがいちばん安い。規制は新規生産分が対象で、手持ちの車両は問題なく乗り続けられる。
不安があるとすれば部品供給だが、タクトのような大量生産されたモデルなら当面は困らないはずだ。オイル交換くらいは自分でやれば年2,500円で済む。
逆に、手放すなら査定は取っておく価値がある。50ccの中古相場については「生産終了で20〜30%上がった」という報道と、「需要が落ちていて上がっていない」という見方の両方がある。筆者は自分では調べていないので、どちらが正しいとは言えない。
ただ査定は無料で、実額が出る。相場の記事を読むより早い。
C. 小型二輪免許を取って、原付二種にする
30km/h制限と二段階右折が嫌なら、これが本筋である。
新基準原付をいくら買っても、その2つは消えない。消したいなら原付二種(125cc・4.0kW超)に上がるしかなく、それには小型限定普通二輪免許が要る。
同じホンダで比べると、スーパーカブ110(原付二種・5.9kW/8.0PS)は396,000円だ。ディオ110 Liteとの差は約156,000円で、そこに免許の費用が乗る。
安くはない。だが「30km/hで走り続けるストレス」を4年払い続けるのと、どちらが高いかは考える価値がある。筆者は原付で片道150km走ったことがあるが、距離そのものより、30km/hであることのほうがきつかった。
なお、任意保険は原付二種になると別物になる。ファミリーバイク特約は原付二種まで対象のことが多いが、条件は保険会社によって違う。上がる前に見積もりを取っておくほうがいい。
【結論】買えるのは「速さ」ではなく「余裕」だ
計算して分かったことをまとめる。
- 維持費はほぼ変わらない。税金も自賠責も任意保険も同じ区分で、ガソリン代の差は4年で約2,000円
- 差額の97%は車両価格。タクトとディオ110 Liteで60,500円
- 排気量は2.2倍でも、最高出力は12%増。4.0kWの上限があるため
- 増えるのはトルク85%と、重量17kg
- 30km/h制限と二段階右折は消えない
だから、こう考えるのが素直だと思う。
坂や荷物で困っているなら、6万円を払う価値はある。トルクは正直に効く。
平地を短距離走るだけなら、いま持っている50ccを大事に乗るのがいちばん安い。
そして「30km/hがつらい」が理由なら、新基準原付を買っても解決しない。免許を取るしかない。ここだけは、お金では解決できない。
筆者自身はタクトを2028年まで乗る予定だ。年34,000円という数字を4年ぶん見てきた結論として、この乗り物のコストパフォーマンスは、まだ十分に高い。
参考文献









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